会長あいさつ
安日 一郎
ALSOの継承"Pay Forward"離島・へき地から日本のウィメンズヘルスケアを考える
2020年5月16日(土)、第6回ALSO-Japan学術集会を長崎で開催させていただくことになりました。1991年に米国ウィスコンシン大学の2人の家庭医によって開発された本コースは、日本では2009年、金沢で産声を上げることになります。その日本初のプロバイダーコースの受講生として参加して以来、10年を過ぎたこの年に、学術集会長として本学会を開催せていただけることに、日夜ALSO-Japanの発展のために努力を惜しまないインストラクター、インスト・キャンディデイト、そしてアシスタントとしてコースを支えていただいている全国の皆さんに心より感謝申し上げます。
次世代への投資
停滞という長いトンネルから一向に抜け出る気配のない今日の日本にあって、医療の現場では様々な格差の拡大を目の当たりにしています。急激な人口減少は僻地・離島と地方都市部の医療格差に拍車をかけ、さらにその波は地方都市と大都市圏の格差の拡大にも至りつつあります。地方の産婦人科医不足がその例です。私たちを取り巻く医療は、この人口減少と格差拡大という大波の中に呑み込まれています。このような中で、分け隔てなく平等な「安心・安全なお産の現場」を守るALSO-Japanの役割は、ますますその重要性を増しています。
今回の学術集会のメインテーマは、ALSO-Japan 10年という節目を過ぎて、次世代にどのように継承していくのか、そうした思いを込めて「ALSOの継承 ”Pay Forward”」といたしました。”Pay Forward”は米国映画のタイトルから拝借しました。”pay back”(恩返し)ではなく、「自分が受けた善意を、周りの人々に繋げていく」、「善意の連鎖」という意味のようですが、「次世代への投資」という意味も込めました。
僻地医療を支える原点回帰
ALSOプロバイダーコースを最初に長崎で開催したのは2009年でした。隠岐の島の分娩施設閉鎖危機を契機に、日本で産科医不足がマスコミで取り上げられたのは2005年でした。その頃、長崎県の離島の分娩施設も同様に、医師確保の困難さから次々に閉鎖の危機を迎えていました。長崎県は全国で最も有人離島の多い県であり、この困難な局面をなんとか打開できないかと私はひとりで「勝手に夢想して」いました。その時、ふとしたきっかけで知ったカナダの僻地医療モデルが私の脊髄をヒットしました。カナダはその広範な国土の僻地医療を家庭医が支えていることを知ったのです。その後今日まで、私たちは長崎県の離島の周産期医療を、家庭医や助産師を含めた多職種でどのように支えていくのかをテーマに、微力ながら取り組んできました。今回の学術集会のサブタイトルは「離島・へき地から日本のウィメンズヘルスケアを考える」といたしました。メインテーマである次世代への継承とともに、その原点を見つめ直すことの意義を見出せる学会になればと「勝手に夢想して」います。ぜひ、その場にお越しいただき、活発な議論が交わされ、明日への「光」を垣間見ることができるようにと、ポスターにも一点の光がアレンジされています。長崎で皆さんの闊達な議論が展開されることを心待ちにしています。
第6回 ALSO-Japan学術集会会長国立病院機構長崎医療センター 産婦人科
安日 一郎